はじめに
学生の住まいが “下宿” 主流であった1970年。
「安心して暮らせ 勉学に励める女子寮を」との想いを込めて
先代オーナーにより、女子学生専用寮「修学館」が開設されました。
時代とともに、学生の住まいは
共同下宿や学生アパートからマンションへと変遷し、
修学館も、いつしか空き室が増えるようになりました。
次のステージを検討していたところ、
京都精華大学運営の留学生寮として活用されることに。
その後、京都芸術専門学校女子寮、同志社大学留学生寮として活用され、
多くの学生を見守り、支え、憩いと交流の場としての役割を担ってきました。
ここを巣立った卒業生たちの心には「修学館」の思い出が刻まれていることでしょう。
そして2018年。
同志社大学留学生寮としての役目を終えるにあたり、
オーナーとともに、次なる利活用にむけての協議がはじめられました。
企画提案
吉田 光一(フラットエージェンシー取締役会長)
-2017年12月
株式会社ウエダ事務機 代表取締役 岡村 充泰氏より「東京渋谷で新しい住まい方を提唱・実践し、その中から多方面で活躍している組織「cift」(近藤ナオ氏)が、京都でも拠点を探しているので紹介したい」とのお話があり、早速、近藤ナオ氏と共に「修学館」を内覧頂きました。すでに両者とも内心では修学館を京都での拠点として位置づけているようでした。
-2018年1月15日
「修学館」のオーナー・宮崎様を訪問し、岡村様よりciftについて詳しくご説明頂き、宮崎様にも次世代の利活用として大いに賛同をいただきました。そして、宮崎様ご夫婦と弊社スタッフが東京へ視察に赴き、近藤ナオ氏より、渋谷でのciftの主な活動と京都での魅力的な活用計画を聴くことができました。
-2018年2月13日
修学館改修計画が開始。設計デザインはきめ細かな打ち合わせができる土橋先生に決定、施工は弊社建築部の特命工事に。毎月一度は必ず打ち合わせを行い、宮崎様ご夫婦にもご参加いただき、度重なる協議を経て、理想の形になっていきました。
同志社大学留学生が退去し空き家となってから2020年8月28日・29日の見学会開催まで実に2年が経過していました。
建築家
土橋 孝一(土橋建築設計室)
今回の計画は、50年前の昭和45年に学生寮として先代オーナーが建築された当初の計画理念を引き継ぎつつ、この建物を次の時代にマッチングさせるリニューアル計画。
34室あった部屋を22室に縮小し、共用部分を拡張させ、一棟の建物の中でそれぞれの個室を〈階段〉〈廊下〉で連結させることで一体空間として利用、建物周囲の外部空間から四季を感じる暮らし、そして外観と内部空間はあえて古さを生かす計画でスタートした。
設計手法は「足し算」の設計ではなく「引き算」、今ある空間と材料と機能をどのようにして、以前からそこにあったように表現するかがポイント。そのため古いところと新しいところのメリハリを明確にして、「自然素材が持つ力」、「時間の経過による建物の力」などをうまく表現できるように設計を進めていった。「形」と「色合い」と「素材」の新旧のバランスが設計のポイントになった。
リニューアル後の建物が完成形ではなく、これからこの建物に住まう人たちが、建物の広がりと機能を拡張し、新しい住まいのステージに向けた歩みがはじまり、完成へと近づいていく。
これからのこの建物の変化が大いに楽しみです。